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超音波モータを利用した超高真空対応回転導入器の研究

目的

 真空容器内の気体圧力は容器内におかれた物および容器内壁からのガスの発生速度と真空ポンプの排気速度のバランスによって決定される.超高真空を作り出すには容器内のガス発生源をできるだけ減らす必要があり,樹脂などを多用しているモータを置くことは好ましくない.そのため,モータはチャンバーの外に配置し何らかの方法でチャンバーの中に伝達することが多いが,回転運動に関してはその伝達導入技術が進んでおらず,なめらかな回転を真空チャンバー内に発生することが難しい.新野研ではこの問題を解決するために,チャンバーの外で圧電素子を利用して超音波振動を発生し,真空チャンバー内にリジッドな伝達体を通して振動を導入し,内部で超音波モータの原理を利用して回転運動を発生する新しい回転導入器の開発を行っている.

構造と原理

 超音波モータ回転導入器の構造は図 1aの通りである.真空容器内に配置する金属以外の部品をできるだけ少なくするために,超音波発生部分である圧電素子を大気中に配置した.圧電素子によって励起された振動は,超音波振動伝導体を介して真空容器内にも導入され,超音波振動伝導体全体が曲げモードの共振を発生する(図 1b).自由端となっている伝導体の真空側端の振動(首振り振動)から,超音波モータの原理を利用して,回転子を回転させる(図 1c).図 2に,回転導入器の外観を示す.

超音波モータを利用した回転導入器 図1 超音波モータを利用した回転導入器

超音波モータ回転導入器
図2 超音波モータ回転導入器

 加振源にボルト締めランジュバン素子(図 3)を使用し,伝導体に長軸に垂直な2方向に90°位相の異なる曲げ振動を励起する.モード回転型の超音波モータ(図 4)の原理を利用することとする.伝導体はフランジに対して溶接されており,真空チャンバの内部と外部とは完全に隔絶される.溶接部が共振の妨げにならないよう,溶接部が定在波の節になるように設計し,真空内部の長さを長くとるため,溶接部から自由端までの長さは5/4波長とした.

ランジュバン素子
図3 ランジュバン素子

モード回転型超音波モータ
図4 モード回転型超音波モータ
振動モード
図5 振動モード


性能

 試作超音波モータ回転導入機で得られた性能は以下の通りである.回転導入器の出力を磁気カップリング式回転導入器を介して,真空容器外へ取り出して動力性能を測定した結果を図 6に示す.駆動条件は電圧800[Vp-p],駆動周波数32.3[kHz],回転子の固定子への押しつけ力(予圧)は11.7Nとした.試験は本回転導入器を容器を装着した状態で200℃48時間のベーク処理を施し,容器内気体圧力を4x10-8Paまで排気してから行った.200℃ベーク処理を行い真空容器内圧力が3.0×10-8Paに達してから連続駆動試験を開始した.予圧は11.7Nとし,駆動周波数は31.96〜32.37kHzで回転数が最大になるように調整し,印加電圧は回転数が150rpmとなるように,480〜800Vp-pで調整した.駆動中の回転速度と真空容器内圧力を図 7に示す.平均150rpmで400時間の駆動に成功した.

回転数と負荷の関係
図6 回転数と負荷の関係

超音波モータの超高真空中での運転
図7 超音波モータの超高真空中での運転

 実際の駆動の様子を示す。表示されない場合はこちら


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今後の展開

 これまでの研究の結果,摩擦駆動である超音波モータを利用しても10-8Paオーダの超高真空を維持したままメカトロオペレーションを実現可能であることがあることがわかった.従来,超高真空環境中の超音波モータは非常に小さな試料の微小位置決めなど,軽負荷の用途に限られてきたが,テーブルを駆動するなどの重負荷にも対応できる可能性が見えてきたことが本研究のこれまでに得られた最大の成果である.今後は寿命のさらなる延長を目指しつつ,制御などメカトロアクチュエータとして必要になる用件を一つずつ満たしていくための開発研究を行っていく予定である.




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