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生体組織工学用ScaffoldのSLS造形に関する研究

目的

 生体適合性確保の困難,高次機能の欠如やドナー不足などの問題を抱える人工臓器や生体臓器移植に対して,自分の細胞を開始点として培養を行い,病気や事故による,あるいは先天性の機能不全をかかえる臓器を置き換えようとする再生医療は,新しい医療としてこれまで大変注目されてきた.一般に再生医療は,培養の開始点となる細胞をどうするかという問題,また,その細胞をどのように培養するかという培養条件,さらには再生される組織に形状を案内しつつ細胞が増殖する場所を付与するための多孔質体の足場(担体)をいかに作るかという3つの要素技術から構成される(図 1).これまでに,組織の形状が2次元的で,代謝速度の小さい皮膚においては,自家細胞による再生医療が実用化されているが,3次元的な内臓組織では,構造,代謝速度以外にも解決しなくてはならない様々な問題が残されており,実用化にはまだまだ研究を必要とする.


図1 再生医療の3要素

 当研究室では比較的再生能力が旺盛であると言われている肝臓の再構築を目的とした担体の造形に関する研究を行っている.担体は培養される細胞の位置を案内すると同時に増殖する場を与えるために用いられる.したがって,臓器の再構築後は速やかに消滅することが望ましく,担体の作製には生体吸収性の材料を用いなくてはならない.また,前述したように担体内部には細胞が培養される空孔がなくてはならず,空孔率は90%以上となることが望ましい.また,培養の過程において担体内が細胞で満たされてくると,酸素の供給が少なくなる部分において壊死が発生する.これを防ぐために,担体内には網の目状に張り巡らされた流路を配置し(図 2),担体内のどの位置においても比較的近い場所に流路があり,細胞はそこから酸素の供給を受けられるようにしなければならない.このような要請に応えるため,当研究室では担体の製造方法として材料選択の自由度が大きく,オーバハングのある形状も容易に造形できる粉末焼結積層造形法を利用した担体の造形に関する研究を行っている.


図2 流路ネットワーク

水溶性フィラーを用いた粉末焼結積層造形

 粉末焼結積層造形法では,レーザ露光して固体化した部分では粉末が詰まって見かけの密度が増加する.造形装置で粉末を敷いたときの粉末の充填率は約40%であり,この時点で60%以上の空孔率は得られないことになる.本研究では,要求されている90%以上の空孔率を得るために,担体の材料となる生分解性プラスチックの粉末と水溶性の無機材料の混合粉末を粉末焼結積層造形し,造形後に無機材料のみを溶出することによって高い空孔率を得る.

フィラーを用いた空孔率の向上
図3 フィラーを用いた空孔率の向上

造形実験および評価

 足場の材料には生分解性樹脂のひとつであるポリカプロラクトンを使用した.これを平均粒径50μmの球状に加工し,粒径100μm〜150μmに篩った食塩粉末を水溶性フィラーとして,カプロラクトン1に対して食塩4の重量比で混合し,粉末焼結積層造形の材料として利用した.粉末焼結積層造形には開発中の試作装置を利用した.造形した足場及び流路の設計形状を図 4に示す.また,作成したScaffoldの外観を図 5に示す.各流路の径及び長さはそれぞれ1mmと4mm,上下各6段に積層された四面体の辺の部分に配置されている.足場は紡錘形状をしており,全体の体積は13cm3である.に造形した足場を示す.足場の質量は1.7gであり,空孔率は89%となった.フィラーとして用いた食塩は,2時間浸した純粋中の塩分濃度が生理的食塩水のそれの3万分の1以下まで低下する程度まで除去することができた.X線透過像(図 6),X線CT像(図 7)に示されるように,流路内の粉末は完全に除去されていることが確認された.また,通常の手作業では破壊しない程度の強度が得られた.
 これまでに,この方法によって製作された足場を用いた培養により生体肝の10%程度までの細胞密度が得られている.また,流路の無い場合にくらべて4倍程度の細胞密度が得られており,流路の必要性が確認された.

足場と流路のデザイン
図4 足場と流路のデザイン
作成したScaffold
図5 作成したScaffold
足場のX線写真
図6 足場のX線写真
CT再構築画像
図7 CT再構築画像


最近の研究成果

 細胞の活動をさらに活発化させるため,流路形状の見直しを行った.作成したScaffoldのX線透過像を図8に,断面のX線CT像を図9に示す.新しいScaffoldは,図8のように流路入口部より2mm,1.5mm,1mmと3段階に変化する流路を持つ.これによりScaffold内の培養液の流れを均一にすることに成功した.

流路を改善したScaffoldのX線透過像
図8 流路を改善したScaffoldのX線透過像
流路を改善したScaffoldのX線CT像
図9 流路を改善したScaffoldのX線CT像


今後の展開

 試作した,流路ネットワークの微細性は生体肝と同等の細胞密度を得るにはまだ不十分な値であり,現在その微細性をさらに向上するための研究や,フィラーの混合量や粒径の最適化の研究も行っている.




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